ろうかという疑が起った。その時僕は急に彼を憎《にく》み出した。そうして僕の口を利《き》くべき機会が廻って来てもわざと沈黙を守った。
落ちついた今の気分でその時の事を回顧して見ると、こう解釈したのはあるいは僕の僻《ひが》みだったかも分らない。僕はよく人を疑ぐる代りに、疑ぐる自分も同時に疑がわずにはいられない性質《たち》だから、結局|他《ひと》に話をする時にもどっちと判然《はっきり》したところが云い悪《にく》くなるが、もしそれが本当に僕の僻《ひが》み根性《こんじょう》だとすれば、その裏面にはまだ凝結した形にならない嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]《しっと》が潜《ひそ》んでいたのである。
十七
僕は男として嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]の強い方か弱い方か自分にもよく解らない。競争者のない一人息子としてむしろ大事に育てられた僕は、少なくとも家庭のうちで嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]を起す機会を有《も》たなかった。小学や中学は自分より成績の好い生徒が幸いにしてそう無かったためか、至極《しごく》太平に通り抜けたように思う。高等学校から
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