た彼女の翻弄《ほんろう》に対して感謝した。僕は今まで気がつかずに彼女を愛していたのかも知れなかった。あるいは彼女が気がつかないうちに僕を愛していたのかも知れなかった。――僕は自分という正体が、それほど解り悪《にく》い怖《こわ》いものなのだろうかと考えて、しばらく茫然《ぼうぜん》としていた。するとあちらの方で電話がちりんちりんと鳴った。千代子が縁伝いに急ぎ足でやって来て、僕にいっしょに電話をかけてくれと頼んだ。僕にはいっしょにかけるという意味が呑み込めなかったが、すぐ立って彼女と共に電話口へ行った。
「もう呼び出してあるのよ。あたし声が嗄《か》れて、咽喉《のど》が痛くって話ができないからあなた代理をしてちょうだい。聞く方はあたしが聞くから」
僕は相手の名前も分らない、また向うの話の通じない電話をかけるべく、前屈《まえこご》みになって用意をした。千代子はすでに受話器を耳にあてていた。それを通して彼女の頭へ送られる言葉は、独《ひと》り彼女が占有するだけなので、僕はただ彼女の小声でいう挨拶《あいさつ》を大きくして訳も解らず先方へ取次ぐに過ぎなかった。それでも始の内は滑稽《こっけい》も構わず暇
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