先輩として仰いでいた。なにかにつけて相談もしたり、世話にもなった。両家の間に新らしく成立したこの親しい関係が、月と共に加速度をもって円満に進行しつつある際に千代子が生れた。その時僕の母はどう思ったものか、大きくなったらこの子を市蔵の嫁にくれまいかと田口夫婦に頼んだのだそうである。母の語るところによると、彼らはその折《おり》快よく母の頼みを承諾したのだと云う。固より後から百代が生まれる、吾一《ごいち》という男の子もできる、千代子もやろうとすればどこへでもやられるのだが、きっと僕にやらなければならないほど確かに母に受合ったかどうか、そこは僕も知らない。
六
とにかく僕と千代子の間には両方共物心のつかない当時からすでにこういう絆《きずな》があった。けれどもその絆は僕ら二人を結びつける上においてすこぶる怪しい絆であった。二人は固《もと》より天に上《あが》る雲雀《ひばり》のごとく自由に生長した。絆を綯《な》った人でさえ確《しか》とその端《はし》を握っている気ではなかったのだろう。僕は怪しい絆という文字を奇縁という意味でここに使う事のできないのを深く母のために悲しむのである。
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