むすこ》ではなかった。父の死ぬ前に枕元へ呼びつけられて意見されただけあって、小さいうちからよく母に逆《さか》らった。大きくなって、女親だけになおさら優しくしてやりたいという分別ができた後《あと》でも、やっぱり彼女の云う通りにはならなかった。この二三年はことに心配ばかりかけていた。が、いくら勝手を云い合っても、母子《おやこ》は生れて以来の母子で、この貴《たっ》とい観念を傷つけられた覚《おぼえ》は、重手《おもで》にしろ浅手《あさで》にしろ、まだ経験した試しがないという考えから、もしあの事を云い出して、二人共後悔の瘢痕《はんこん》を遺《のこ》さなければすまない瘡《きず》を受けたなら、それこそ取返しのつかない不幸だと思っていた。この畏怖《いふ》の念は神経質に生れた僕の頭で拵《こし》らえるのかも知れないとも疑《うたぐ》って見た。けれども僕にはそれが現在よりも明らかな未来として存在している事が多かった。だから僕はあの時の父と母の言葉を、それなり忘れてしまう事ができなかったのを、今でも情なく感ずるのである。
四
父と母の間はどれほど円満であったか、僕には分らない。僕はまだ妻《さ
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