いた。敬太郎は久しぶりに晴々《はればれ》した好い気分になって、水だの岡だの帆《ほ》かけ船《ぶね》だのを見廻した。須永も景色《けしき》だけは賞《ほ》めたが、まだこんな吹き晴らしの土堤などを歩く季節じゃないと云って、寒いのに伴《つ》れ出した敬太郎を恨《うら》んだ。早く歩けば暖たかくなると出張した敬太郎はさっさと歩き始めた。須永は呆《あき》れたような顔をして跟《つ》いて来た。二人は柴又《しばまた》の帝釈天《たいしゃくてん》の傍《そば》まで来て、川甚《かわじん》という家《うち》へ這入《はい》って飯を食った。そこで誂《あつ》らえた鰻《うなぎ》の蒲焼《かばやき》が甘《あま》たるくて食えないと云って、須永はまた苦い顔をした。先刻《さっき》から二人の気分が熟しないので、しんみりした話をする余地が出て来ないのを苦しがっていた敬太郎は、この時須永に「江戸っ子は贅沢《ぜいたく》なものだね。細君を貰うときにもそう贅沢を云うかね」と聞いた。
「云えれば誰だって云うさ。何も江戸っ子に限りぁしない。君みたような田舎《いなか》ものだって云うだろう」
 須永はこう答えて澄ましていた。敬太郎は仕方なしに「江戸っ子は無愛嬌
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