肯《うな》ずいた。
「いつ」
「ほら先刻《さっき》御棺に入れる時見たんじゃないの。なぜ」
 千代子はそれを忘れていた。妹がもし見ないと云ったら、二人で棺の葢《ふた》をもう一遍開けようと思ったのである。「御止しなさいよ、怖《こわ》いから」と云って百代は首をふった。
 晩には通夜僧《つやそう》が来て御経を上げた。千代子が傍で聞いていると、松本は坊さんを捕まえて、三部経《さんぶきょう》がどうだの、和讃《わさん》がどうだのという変な話をしていた。その会話の中には親鸞上人《しんらんしょうにん》と蓮如上人《れんにょしょうにん》という名がたびたび出て来た。十時少し廻った頃、松本は菓子と御布施《おふせ》を僧の前に並べて、もう宜《よろ》しいから御引取下さいと断《こと》わった。坊さんの帰った後《あと》で御仙がその理由《わけ》を聞くと、「何坊さんも早く寝た方が勝手だあね。宵子だって御経なんか聴くのは嫌《きらい》だよ」とすましていた。千代子と百代子は顔を見合せて微笑した。
 あくる日は風のない明らかな空の下に、小いさな棺が静かに動いた。路端《みちばた》の人はそれを何か不可思議のものでもあるかのように目送《もく
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