太郎は、自分の馬鹿な振舞《ふるまい》を顧《かえり》みる後悔よりも、自分を馬鹿にした責任者を怨《うら》むよりも、むしろ悪戯をした田口を頼もしいと思う心が、わが胸の裏《うち》で一番勝を制したのを自覚した。が、はたしてそういう人ならば、なぜ彼の前に出て話をしている間に、あんな窮屈な感じが起るのだろうという不審も自《おの》ずと萌《きざ》さない訳に行かなかった。
「あなたの御話でだいぶ田口さんが解って来たようですが、私はあの方《かた》の前へ出ると、何だか気が落ちつかなくって変に苦しいです」
「そりゃ向うでも君に気を許さないからさ」
十四
こう云われて見ると、田口が自分に気を許していない眼遣《めづかい》やら言葉つきやらがありありと敬太郎《けいたろう》の胸に、疑《うたがい》もない記憶として読まれた。けれども田口ほどの老巧のものに、何で学校を出たばかりの青臭《あおくさ》い自分が、それほど苦になるのか、敬太郎は全く合点《がてん》が行かなかった。彼は見た通りのままの自分で、誰の前へ出ても通用するものと今まで固く己《おの》れを信じていたのである。彼はただかような青年として、他《ひと》に
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