いたが、やがて判切《はっきり》した口調で、「いや知るまい」と断言した。「あの箆棒の田口に、一つ取柄《とりえ》があると云えば云われるのだが、あの男はね、いくら悪戯《いたずら》をしても、その悪戯をされた当人が、もう少しで恥を掻《か》きそうな際《きわ》どい時になると、ぴたりととめてしまうか、または自分がその場へ出て来て、当人の体面にかかわらない内に綺麗《きれい》に始末をつける。そこへ行くと箆棒《べらぼう》には違ないが感心なところがあります。つまりやりかたは悪辣《あくらつ》でも、結末には妙に温《あたた》かい情《なさけ》の籠《こも》った人間らしい点を見せて来るんです。今度の事でもおそらく自分一人で呑《の》み込んでいるだけでしょう。君が僕の家《うち》へ来なかったら、僕はきっとこの事件を知らずに済むんだったろう。自分の娘にだって、君の馬鹿を証明するような策略《さくりゃく》を、始めから吹聴《ふいちょう》するほど無慈悲《むじひ》な男じゃない。だからついでに悪戯《いたずら》も止せばいいんだがね、それがどうしても止せないところが、要するに箆棒です」
田口の性格に対する松本のこういう批評を黙って聞いていた敬
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