かろうと覚悟をきめた。
「実はあなたの後《あと》を跟《つ》けてわざわざ江戸川まで来たのです」と云って松本の顔を見ると、案外にも予期したほどの変化も起らないので、敬太郎はまず安心した。
「何のために」と松本はほとんどいつものような緩《ゆる》い口調で聞き返した。
「人から頼まれたのです」
「頼まれた? 誰に」
 松本は始めて、少し驚いた声の中《うち》に、並より強いアクセントを置いて、こう聞いた。

        十二

「実は田口さんに頼まれたのです」
「田口とは。田口|要作《ようさく》ですか」
「そうです」
「だって君はわざわざ田口の紹介状を持って僕に会いに来たんじゃありませんか」
 こう一句一句問いつめられて行くよりは、自分の方で一と思いに今までの経過を話してしまう方が楽な気がするので、敬太郎《けいたろう》は田口の速達便を受取って、すぐ小川町の停留所へ見張《みはり》に出た冒険の第一節目から始めて、電車が江戸川の終点に着いた後の雨の中の立往生に至るまでの顛末《てんまつ》を包まず打ち明けた。固《もと》よりただ筋の通るだけを目的に、誇張は無論|布衍《ふえん》の煩《わずら》わしさもできる限り
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