変えようとする努力と、これを緒口《いとくち》に、革《かわ》の手袋を穿《は》めた女の関係を確かめたい希望が三ついっしょに働らくので、元からそれほど秩序の立っていない彼の思想になおさら暗い影を投げた。けれども松本はそんな事にまるで注意しない風で、困った敬太郎の顔を平気に眺《なが》めていた。もしこれが田口であったなら手際《てぎわ》よく相手を打ち据《す》える代りに、打ち据えるとすぐ向うから局面を変えてくれて、相手に見苦るしい立ち往生などはけっしてさせない鮮《あざ》やかな腕を有《も》っているのにと敬太郎は思った。気はおけないが、人を取扱かう点において、全く冴《さ》えた熟練を欠いている松本の前で、敬太郎は図《はか》らず二人の相違を認めたような気がしていると、松本は偶然「あなたはそういう問題を考えて見た事がないようですね」と聞いてくれた。
「ええまるで考えていません」
「考える必要はありませんね。一人で下宿している以上は。けれどもいくら一人だって、広い意味での男対女の問題は考えるでしょう」
「考えると云うよりむしろ興味があるといった方が適当かも知れません。興味なら無論あります」

        十
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