ね、あなたに勇気さえあるなら聞いて御覧なさい。どうです、それを聞くだけの度胸があなたにありますか」
田口はここでちょっと言葉を切らして敬太郎の顔を見たが、答の出ないうちにまた自分から話を続けた。
「だが両方とも口へ出せるように自然が持ちかけて来るまでは、聞いても話してもいけませんよ。いくら勇気があったって、常識のない奴《やつ》だと思われるだけだから。それどころじゃない、あの男はただでさえ随分|会《あ》い悪《にく》い方《ほう》なんだから、そんな事をむやみに喋《しゃ》べろうものなら、直《すぐ》帰ってくれぐらい云い兼ねないですよ。紹介をして上げる代りには、そこいらはよく用心しないとね……」
敬太郎は固《もと》より畏《かしこ》まりましたと答えた。けれども腹の中では黒の中折《なかおれ》の男を田口のように見る事がどうしてもできなかった。
七
田口は硯箱《すずりばこ》と巻紙を取り寄せて、さらさらと紹介状を書き始めた。やがて名宛《なあて》を認《したた》め終ると、「ただ通り一遍の文言《もんごん》だけ並べておいたらそれで好いでしょう」と云いながら、手焙《てあぶり》の前に翳《かざ》
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