「じゃどうでしょう。黙って後なんどを跟けずに、あなたのいう通り尋常に玄関からかかって行っちゃ。あなたにそれだけの勇気がありますか」
「無い事もありません」
「あんなに跟け廻した後で」
「あんなに跟け廻したって、私はあの人達の不名誉になるような観察はけっしてしていないつもりです」
「ごもっともだ。そんなら一つ行って御覧なさい。紹介するから」
 田口はこう云いながら、大きな声を出して笑った。けれども敬太郎にはこの申し出が万更《まんざら》の冗談《じょうだん》とも思えなかったので、彼は紹介状を携《たずさ》えて本当に眉間《みけん》の黒子《ほくろ》と向き合って話して見ようかという料簡《りょうけん》を起した。
「会いますから紹介状を書いて下さい。私はあの人と話して見たい気がしますから」
「宜《い》いでしょう。これも経験の一つだから、まあ会って直《じか》に研究して御覧なさい。あなたの事だから田口に頼まれてこの間の晩|後《あと》を跟《つ》けましたぐらいきっと云うでしょう。しかしそれは構わない。云いたければ云っても宜《よ》うござんす。私《わたし》に遠慮は要《い》らないから。それからあの女との関係もです
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