悪い思いをしても、見た事も口を利《き》いた事もない女だと正直に云わなければならなかった。田口はそうですかと、穏《おだや》かに敬太郎の返事を聞いただけで、少しも追窮する気色《けしき》を見せなかったが、急に摧《くだ》けた調子になって、
「どんな女なんです。その若い婦人と云うのは。器量からいうと」と興味に充《み》ちた顔を提煙草盆《さげたばこぼん》の上に出した。
「いえ、なに、つまらない女なんです」と敬太郎は前後の行《い》きがかり上答えてしまって、実際頭の中でもつまらないような気がした。これが相手と場合しだいでは、うん器量はなかなか好い方だぐらいは固より云い兼ねなかったのである。田口は「つまらない女」という敬太郎の判断を聞いて、たちまち大きな声を出して笑った。敬太郎にはその意味がよく解らなかったけれども、何でも頭の上で大濤《おおなみ》が崩れたような心持がして、幾分か顔が熱くなった。
「よござんす、それで。――それからどうしました。女が停留所で待ち合わしているところへ男が来て」
 田口はまた普通の調子に戻って、真面目《まじめ》に事件の経過を聞こうとした。実をいうと敬太郎は自分がこれから話す顛末《
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