一と口と、それに添えた叮嚀《ていねい》な御辞儀《おじぎ》を一つした。それからすぐ昨日《きのう》の事を云い出そうとしたが、何をどう先に述べたら都合がいいか、この場に臨んで急にまた迷い始めたうちに、切り出す機を逸してしまった。主人はまた冒頭からさも忙がしそうに声も身体《からだ》も取り扱かっている癖に、どこか腹の中に余裕《よゆう》の貯蔵庫でもあるように、けっして周章《あわて》て探偵の結果を聞きたがらなかった。本郷では氷が張るかとか、三階では風が強く当るだろうとか、下宿にも電話があるのかとか、調子は至極《しごく》面白そうだけれども、その実つまらない事ばかり話の種にした。敬太郎は向うの問に従って主人の満足する程度にわが答えを運んでいたが、相手はこんな無意味な話を進めて行くうちに、暗《あん》に彼の様子を注意しているらしかった。そこまでは彼もぼんやり気がついた。しかし主人がなぜそんな注意を自分に払うのか、その訳《わけ》はまるで解らなかった。すると、
「どうです昨日《きのう》は。旨《うま》く行きましたか」と主人が突然聞き出した。こう聞かれるだろうぐらいの腹は始めから敬太郎にもあったのだが、正直に答えれ
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