ん》も同じ男が勧めてくれただけで、女はいっさい出て来なかった。敬太郎は広い室の真中に畏《かしこ》まって、主人の足音の近づくのを窮屈に待った。ところがその主人は用談が果てないと見えて、いつまで待ってもなかなか現われなかった。敬太郎はやむを得ず茶色になった古そうな懸物《かけもの》の価額《ねだん》を想像したり、手焙の縁《ふち》を撫《な》で廻したり、あるいは袴《はかま》の膝《ひざ》へきちりと両手を乗せて一人改たまって見たりした。すべて自分の周囲《まわり》があまり綺麗《きれい》に調《ととの》っているだけに、居心地が新らし過ぎて彼は容易に落ちつけなかったのである。しまいに違棚《ちがいだな》の上にある画帖《がじょう》らしい物を取りおろしてみようかと思ったが、その立派な表紙が、これは装飾だから手を触れちゃいけないと断《ことわ》るように光るので、彼はついに手を出しかねた。
 こう敬太郎の神経を悩ました主人は、彼をやや小一時間も待たした後《あと》で、ようやく応接間から出て来た。
「どうも長い間御待たせ申して。――客がなかなか帰らないものだから」
 敬太郎はこの言訳に対して適当と思うような挨拶《あいさつ》を
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