ってある新柄《しんがら》の襟飾《ネクタイ》だの、絹帽《シルクハット》だの、変《かわ》り縞《じま》の膝掛《ひざかけ》だのを覗《のぞ》き込みながら、こう遠慮をするようでは、探偵の興も覚《さ》めるだけだと考えた。女がすでに離れた以上、自分の仕事に飽《あき》が来たと云ってはすまないが、前《ぜん》同様であるべき窮屈の程度が急に著るしく感ぜられてならなかった。彼の依頼されたのは中折の男が小川町で降りてから二時間内の行動に限られているのだから、もうこれで偵察の役目は済んだものとして、下宿へ帰って寝ようかとも思った。
そこへ男の待っている電車が来たと見えて、彼は長い手で鉄の棒を握るや否《いな》や瘠《や》せた身体《からだ》を体《てい》よくとまり切らない車台の上に乗せた。今まで躊躇《ちゅうちょ》していた敬太郎は急にこの瞬間を失なってはという気が出たので、すぐ同じ車台に飛び上った。車内はそれほど込みあっていなかったので、乗客は自由に互の顔を見合う余裕を充分持っていた。敬太郎は箱の中に身体を入れると同時に、すでに席を占めた五六人から一度に視線を集められた。そのうちには今|坐《すわ》ったばかりの中折の男のも交
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