し合せたように敬太郎の方を顧《かえり》みた。固《もと》より彼のいる方から電車が横町を曲って来るからではあるが、それにしても敬太郎は余り好い心持はしなかった。彼は帽子の鍔《つば》をひっくり返して、ぐっと下へおろして見たり、手で顔を撫《な》でて見たり、なるべく軒下へ身を寄せて見たり、わざと変な見当《けんとう》を眺《なが》めて見たりして、電車の現われるのをつらく待ち佗《わ》びた。
 間《ま》もなく一台来た。敬太郎はわざと二人の乗った後《あと》から這入《はい》って、嫌疑《けんぎ》を避けようと工夫した。それでしばらく後の方にぐずぐずしていると、女は例の長いコートの裾《すそ》を踏まえないばかりに引き摺《ず》って車掌台の上に足を移した。しかしあとから直《すぐ》続くと思った男は、案外|上《あが》る気色《けしき》もなく、足を揃《そろ》えたまま、両手を外套《がいとう》の隠袋《かくし》に突き差して立っていた。敬太郎は女を見送りに男がわざわざここまで足を運んだのだという事にようやく気がついた。実をいうと、彼は男よりも女の方に余計興味を持っていたのである。男と女がここで分れるとすれば、無論男を捨てて女の先途だけ
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