《か》ぎ嗅ぎ鈍《のろ》い足並を我慢して実直にその跡を踏んだ。男は背が高いので後《うしろ》から見ると、ちょっと西洋人のように思われた。それには彼の吹かしている強い葉巻が多少|錯覚《さっかく》を助けた。すると聯想《れんそう》がたちまち伴侶《つれ》の方に移って、女が旦那《だんな》から買って貰《もら》った革《かわ》の手袋を穿《は》めている洋妾《らしゃめん》のように思われた。敬太郎がふとこういう空想を起して、おかしいと思いながらも、なお一人で興を催していると、二人は最前待ち合わした停留所の前まで来てちょっと立ちどまったが、やがてまた線路を横切って向側へ越した。敬太郎も二人のする通りを真似《まね》た。すると二人はまた美土代町《みとしろちょう》の角《かど》をこちらから反対の側へ渡った。敬太郎もつづいて同じ側へ渡った。二人はまた歩き出して南へ動いた。角から半町ばかり来ると、そこにも赤く塗った鉄の柱が一本立っていた。二人はその柱の傍《そば》へ寄って立った。彼らはまた三田線を利用して南へ、帰るか、行くか、する人だとこの時始めて気がついた敬太郎は、自分も是非同じ電車へ乗らなければなるまいと覚悟した。彼らは申
前へ 次へ
全462ページ中186ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング