腕を高く見積りたい今の敬太郎にも絶対の不可能であった。彼は自分の住居《すま》っている地理上の関係から、常に本郷三田間を連絡する電車にばかり乗っていたため、巣鴨方面から水道橋を通って同じく三田に続く線路の存在に、今が今まで気がつかずにいた自己の迂闊《うかつ》を深く後悔した。
 彼は困却の余りふと思いついた窮策《きゅうさく》として、須永《すなが》の助力でも借りに行こうかと考えた。しかし時計はもう四時七分前に逼《せま》っていた。ついこの裏通に住んでいる須永だけれども、門前まで駈けつける時間と、かい摘《つま》んで用事を呑《の》み込ます時間を勘定に入れればとても間に合いそうにない。よしそのくらいの間《ま》は取れるとしたところで、須永に一方の見張りを頼む以上は、もし例の紳士が彼のいる方へ降りるならば、何かの手段で敬太郎に合図をしなければならない。それもこの人込の中だから、手を挙げたり手帛《ハンケチ》を振るぐらいではちょっと通じかねる。紛《まぎ》れもなく敬太郎に分らせようとするには、往来を驚ろかすほどな大きな声で叫ぶに限ると云ってもいいくらいなものだが、そう云う突飛《とっぴ》なよほどな場合でも体裁《
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