もむやみに軽い竹の棒が、寝かそうと起こそうと、手に持とうと袖《そで》に隠そうと、未知の人を探す上に、はたして何の役に立つか知らんと疑ぐった時、彼はちょっとの間《ま》、瘧《ぎゃく》を振い落した人のようにけろりとして、車内を見廻わした。そうして頭の毛穴から湯気の立つほど業《ごう》を煮やした先刻《さっき》の努力を気恥かしくも感じた。彼は自分で自分の所作《しょさ》を紛《まぎ》らす為《ため》に、わざと洋杖を取り直して、電車の床《ゆか》をとんとんと軽く叩《たた》いた。
 やがて目的の場所へ来た時、彼はとりあえず青年会館の手前から引き返して、小川町の通へ出たが、四時にはまだ十五分ほど間《ま》があるので、彼は人通りと電車の響きを横切って向う側へ渡った。そこには交番があった。彼は派出所の前に立っている巡査と同じ態度で、赤いポストの傍《そば》から、真直《まっすぐ》に南へ走る大通りと、緩《ゆる》い弧線を描いて左右に廻り込む広い往来とを眺《なが》めた。これから自分の活躍すべき舞台面を一応こういう風に検分した後で、彼はすぐ停留所の所在を確かめにかかった。

        二十五

 赤い郵便函《ポスト》から五
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