主人の座に帰らないうちにそっと表へ出た。彼は洋杖の頭の曲った角《かど》を、右の腋《わき》の下に感じつつ急ぎ足に本郷の通まで来た。そこでいったん羽織の下から杖《つえ》を出して蛇《へび》の首をじっと眺《なが》めた。そうして袂《たもと》の手帛《ハンケチ》で上から下まで綺麗《きれい》に埃《ほこり》を拭いた。それから後は普通の杖のように右の手に持って、力任せに振り振り歩いた。電車の上では、蛇の頭へ両手を重ねて、その上に顋《あご》を載《の》せた。そうしてやっと今一段落ついた自分の努力を顧《かえり》みて、ほっと一息|吐《つ》いた。同時にこれから先指定された停留所へ行ってからの成否がまた気にかかり出した。考えて見ると、これほど骨を折って、偸《ぬす》むように持ち出した洋杖が、どうすれば眉《まゆ》と眉の間の黒子《ほくろ》を見分ける必要品になるのか、全く彼の思量のほかにあった。彼はただ婆さんに云われた通り、自分のような他人《ひと》のような、長いような短かいような、出るような這入《はい》るようなものを、一生懸命に探し当てて、それを忘れないで携《たず》さえているというまでであった。この怪しげに見えて平凡な、しか
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