くじ》るような事はないでしょうか」
「ええ。だからなるべくおとなしくして。短気を起さないようにね」
これは予言ではない、常識があらゆる人に教える忠告に過ぎないと思ったけれども婆さんの態度に、これという故意《わざ》とらしい点も見えないので、彼はなお質問を続けた。
「進むってどっちへ進んだものでしょう」
「それはあなたの方がよく分っていらっしゃるはずですがね。私はただ最《もう》少し先まで御出《おで》なさい、そのほうが御為だからと申し上げるまでです」
こうなると敬太郎も行きがかり上そうですかと云って引込《ひっこ》む訳に行かなくなった。
「だけれども道が二つ有るんだから、その内でどっちを進んだらよかろうと聞くんです」
婆さんはまた黙って文銭《ぶんせん》の上を眺《なが》めていたが、前よりは重苦しい口調で、「まあ同《おん》なじですね」と答えた。そうして先刻《さっき》裁縫《しごと》をしていた時に散らばした糸屑《いとくず》を拾って、その中から紺《こん》と赤の絹糸のかなり長いのを択《よ》り出して、敬太郎の見ている前で、それを綺麗《きれい》に縒《よ》り始めた。敬太郎はただ手持無沙汰《てもちぶさた》の
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