売の家《うち》が一軒あった。細長い堅木の厚板に、身の上判断と割書《わりがき》をした下に、文銭占《ぶんせんうら》ないと白い字で彫って、そのまた下に、漆《うるし》で塗った真赤《まっか》な唐辛子《とうがらし》が描《か》いてある。この奇体な看板がまず敬太郎の眼を惹《ひ》いた。
十七
よく見るとこれは一軒の生薬屋《きぐすりや》の店を仕切って、その狭い方へこざっぱりした差掛《さしかけ》様のものを作ったので、中に七色唐辛子《なないろとうがらし》の袋を並べてあるから、看板の通りそれを売る傍《かたわ》ら、占ないを見る趣向に違ない。敬太郎《けいたろう》はこう観察して、そっと餡転餅屋《あんころもちや》に似た差掛の奥を覗《のぞ》いて見ると、小作《こづく》りな婆さんがたった一人|裁縫《しごと》をしていた。狭い室《へや》一つの住居《すまい》としか思われないのに、肝心《かんじん》の易者の影も形も見えないから、主人は他行中《たぎょうちゅう》で、細君が留守番をしているところかとも思ったが、店先の構造から推すと、奥は生薬屋の方と続いているかも知れないので、一概に留守と見切《みきり》をつける訳にも行か
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