がんだ男が、襷《たすき》がけで身体《からだ》よりも高く反《そ》り返った刀を抜こうとするところや、大きな蝦蟆《がま》の上に胡坐《あぐら》をかいて、児雷也《じらいや》が魔法か何か使っているところや、顔より大きそうな天眼鏡《てんがんきょう》を持った白い髯の爺さんが、唐机《とうづくえ》の前に坐って、平突《へいつく》ばったちょん髷《まげ》を上から見下《みおろ》すところや、大抵の不思議なものはみんな絵本から抜け出して、想像の浅草に並んでいた。こういう訳で敬太郎の頭に映る観音の境内《けいだい》には、歴史的に妖嬌陸離《ようきょうりくり》たる色彩が、十八間の本堂を包んで、小供の時から常に陽炎《かげろ》っていたのである。東京へ来てから、この怪しい夢は固《もと》より手痛く打ち崩《くず》されてしまったが、それでも時々は今でも観音様の屋根に鵠《こう》の鳥《とり》が巣を食っているだろうぐらいの考にふらふらとなる事がある。今日も浅草へ行ったらどうかなるだろうという料簡《りょうけん》が暗《あん》に働らいて、足が自《おの》ずとこっちに向いたのである。しかしルナパークの後《うしろ》から活動写真の前へ出た時は、こりゃ占《う
前へ
次へ
全462ページ中112ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング