はない。
歳の改まる元旦から、いよいよ事始める緒口《いとぐち》を開くように事がきまった時は、長い間|抑《おさ》えられたものが伸びる時の楽《たのしみ》よりは、背中に背負《しょわ》された義務を片づける時機が来たという意味でまず何よりも嬉《うれ》しかった。けれども長い間|抛《ほう》り出しておいたこの義務を、どうしたら例《いつも》よりも手際《てぎわ》よくやってのけられるだろうかと考えると、また新らしい苦痛を感ぜずにはいられない。
久しぶりだからなるべく面白いものを書かなければすまないという気がいくらかある。それに自分の健康状態やらその他の事情に対して寛容の精神に充《み》ちた取り扱い方をしてくれた社友の好意だの、また自分の書くものを毎日日課のようにして読んでくれる読者の好意だのに、酬《むく》いなくてはすまないという心持がだいぶつけ加わって来る。で、どうかして旨《うま》いものができるようにと念じている。けれどもただ念力だけでは作物《さくぶつ》のできばえを左右する訳にはどうしたって行きっこない、いくら佳《い》いものをと思っても、思うようになるかならないか自分にさえ予言のできかねるのが述作の常であ
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