博士問題とマードック先生と余
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)余《よ》が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|胴着《チョッキ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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       上

 余《よ》が博士に推薦されたという報知が新聞紙上で世間に伝えられたとき、余を知る人のうちの或者《あるもの》は特に書を寄せて余の栄選を祝した。余が博士を辞退した手紙が同じく新聞紙上で発表されたときもまた余は故旧新知《こきゅうしんち》もしくは未知の或《ある》ものからわざわざ賛成同情の意義に富んだ書状を幾通《いくつう》も受取った。伊予《いよ》にいる一旧友は余が学位を授与されたという通信を読んで賀状を書こうと思っていた所に、辞退の報知を聞いて今度は辞退の方を目出《めで》たく思ったそうである。貰《もら》っても辞してもどっちにしても賀すべき事だというのがこの友の感想であるとかいって来た。そうかと思うと悪戯好《いたずらずき》の社友は、余が辞退したのを承知の上で、故《こと》さらに余を厭がらせるために、
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