かったりする事も極めて少ないには違ないけれども、ああいう種類の人が物好きに実験室へ入って朝から晩まで仕事をしたり、または書斎に閉じ籠《こも》って深い考に沈んだりして万事を等閑に附している有様を見ると、世の中にあれほど己のためにしているものはないだろうと思わずにはいられないくらいです。それから芸術家もそうです。こうもしたらもっと評判が好くなるだろう、ああもしたらまだ活計向《くらしむき》の助けになるだろうと傍《はた》の者から見ればいろいろ忠告のしたいところもあるが、本人はけっしてそんな作略《さりゃく》はない、ただ自分の好な時に好なものを描いたり作ったりするだけである。もっとも当人がすでに人間であって相応に物質的|嗜欲《しよく》のあるのは無論だから多少世間と折合って歩調を改める事がないでもないが、まあ大体から云うと自我中心で、極《ご》く卑近の意味の道徳から云えばこれほどわがままのものはない、これほど道楽なものはないくらいです。すでに御話をした通りおよそ職業として成立するためには何か人のためにする、すなわち世の嗜好《しこう》に投ずると一般の御機嫌《ごきげん》を取るところがなければならないのだが
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