のためになる拾五円に過ぎない。同じ訳で人のためにも千円の働きができれば、己のために千円使うことができるのだから誠に結構なことで、諸君もなるべく精出《せいだ》して人のためにお働きになればなるほど、自分にもますます贅沢《ぜいたく》のできる余裕を御作りになると変りはないから、なるべく人のために働く分別をなさるが宜しかろうと思う。
 もっとも自分のためになると云ってもためになり方はいろいろある。第一その中《うち》から税などを払わなければならない。税を出して人に月給をやったり、巡査を雇っておいたり、あるいは国務大臣を馬車に乗せてやったりする。もっとも一人じゃアこれだけの事はできませぬ、我々大勢で金を出してやるのですが、畢竟《ひっきょう》ずるにあの税などもやはり自分のために出すのです。国務大臣が馬車や自動車に乗って怪《け》しからんと言ったってそれは野暮の云う事です。我々が税を出して乗らしておいてやるので国務大臣のためじゃない、つまり己のためだと思えば間違はない。だから時々自動車ぐらい借りに行ってもよかろうと思う。税はそのくらいにしてこのほか己のためにするものは衣食住と他の贅沢費になります。それを合
前へ 次へ
全38ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング