艇長の遺書と中佐の詩
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)名文と云《い》つた。
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|如何《いか》に高等な
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)吾々《われ/\》
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昨日は佐久間艇長の遺書を評して名文と云《い》つた。艇長の遺書と前後して新聞紙上にあらはれた広瀬中佐の詩が、此《この》遺書に比して甚《はなは》だ月並《つきなみ》なのは前者の記憶のまだ鮮かなる吾人《ごじん》の脳裏に一種痛ましい対照を印《いん》した。
露骨に云へば中佐の詩は拙悪《せつあく》と云はんより寧《むし》ろ陳套《ちんたう》を極《きは》めたものである。吾々《われ/\》が十六七のとき文天祥《ぶんてんしやう》の正気《せいき》の歌などにかぶれて、ひそかに慷慨《かうがい》家列伝に編入してもらひたい希望で作つたものと同程度の出来栄《できばえ》である。文字の素養がなくとも誠実な感情を有《いう》してゐる以上は(又|如何《いか》に高等な翫賞《くわんしやう》家でも此《この》誠実な感情を離れて翫賞の出来ないのは無
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