長谷川君と余
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)長谷川《はせがわ》君

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)学問の結果|自《おのずか》らここに至った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「蚌−虫」、第3水準1−14−6]
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 長谷川《はせがわ》君と余は互に名前を知るだけで、その他には何の接触もなかった。余が入社の当時すらも、長谷川君がすでにわが朝日の社員であるという事を知らなかったように記憶している。それを知り出したのは、どう云う機会であったか今は忘却してしまった。とにかく入社してもしばらくの間は顔を合わせずにいた。しかも長谷川君の家《うち》は西片町《にしかたまち》で、余も当時は同じ阿部《あべ》の屋敷内《やしきうち》に住んでいたのだから、住居《すまい》から云えばつい鼻の先である。だから本当を云うと、こっちから名刺でも持って訪問するのが世間並《せけんなみ》の礼であったんだけれども、そこをつい怠《なま》けて、どこが長谷川君
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