ちに、漠然《ばくぜん》とわが脳中に、長谷川君として迎えるあるものが存在していたと見えて、長谷川君という名を聞くや否やおやと思った。もっともその驚き方を解剖して見るとみんな消極的である。第一あんなに背の高い人とは思わなかった。あんなに頑丈《がんじょう》な骨骼《こっかく》を持った人とは思わなかった。あんなに無粋《ぶいき》な肩幅《かたはば》のある人とは思わなかった。あんなに角張《かくば》った顎《あご》の所有者とは思わなかった。君の風※[#「蚌−虫」、第3水準1−14−6]《ふうぼう》はどこからどこまで四角である。頭まで四角に感じられたから今考えるとおかしい。その当時「その面影《おもかげ》」は読んでいなかったけれども、あんな艶《つや》っぽい小説を書く人として自然が製作した人間とは、とても受取れなかった。魁偉《かいい》というと少し大袈裟《おおげさ》で悪いが、いずれかというと、それに近い方で、とうてい細い筆などを握って、机の前で呻吟《しんぎん》していそうもないから実は驚いたのである。しかしその上にも余を驚かしたのは君の音調である。白状すれば、もう少しは浮いてるだろうと思った。ところが非常な呂音《り
前へ
次へ
全12ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング