程を抜きにして、すぐさま結局だけを応用する事ができるから非常に調法で便利であります。現に電信、電話、汽車、汽船を始めとして、およそ我国に行われるいわゆる文明の利器というものはことごとく物真似から出来上ったものであります。至極《しごく》よろしい。人に餅《もち》を搗《つ》かして、自分が寝ながらにしてこれを平げるの観があって、すこぶる痛快であります。がこの現象をすぐ応用して、文学などにも持って行ける、また持って行かなければならないと結論しては、少し寸法が違ってるように思います。と云うものは理学工学その他の科学もしくはその応用は研究の年代を重ねるに従って、一定の方向に向って発達するもので、どの国民がやり出しても、同程度の頭で同程度の勉強をする以上は一日早くやれば早くやった方が勝になるような学問で、しかも一日後れたものは、必ず、一日早く進んだものの後《あと》を(一筋道である)通過しなければならない性質のものであります。歩く道が一筋で、さきが進んでいる以上は、こっちの到着点も明らかに分っているんだから、できるだけ早く甲《かぶと》を脱いで降参する方が得策であります。真似をすると云うと人聞《ひとぎき》
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