句や二句の例ではありません。ちと比例を失するような大きな例になるかも知れませんが、ちょっと御判断を願うために御話を致します。独乙《ドイツ》で浪漫主義の熾《さかん》に起った時、御承知の通り、有名なカロリーネと云うシュレーゲルの細君がありました。この細君が夫《おっと》の朋友《ほうゆう》のシェリングと親しい仲になりまして、とうとう夫と手を切って、シェリングといっしょになります。しかもその時この女は自分の手紙のうちに、縁はこれにて切れ申|候《そうろう》。始めより二世かけてとは固《もと》より思い設けず候と書きました。しかもシュレーゲルといっしょになったのがすでに二度目なのですから、シェリングの所へ行くと三度目の細君になるのです。それで亭主の方はどうかと云うと、離婚を申し込まれた時は侠気《きょうき》を起してさっそく承知したのみならず、離別後も常にシェリングと親密な音信をしていたそうであります。もう一つこんな御話があります。東京近傍の在ですが、ある宿《しゅく》に一軒の荒物屋がありまして、荒物屋の向うに反物屋がありましたそうで。ところがその荒物屋の神《かみ》さんが、どういう仔細《しさい》か、その家《う
前へ 次へ
全142ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング