世界に先《さきだ》って生じ、世界に後れて残るべき人間の本体に近づくものであります」この人はまたカーライルの語を引用しています。「真正の象徴は明らかにまた直接に、無限をあらわしている。無限は象徴によって有限と合体する。眼に見えるようになる。あたかも達せらるるかのごとくに見える」この二人の言葉は多少 infinite longing と同じく、いささか形容の言葉のようにも思われますが、御参考のために、ここに引いておきます)
 これで主観客観の三対|併《あわ》せて、六通りの叙述の説明を済ましました。そこでこれだけ説明すればあらゆる文学書中に出て来るすべてのものを説明し尽したとはけっして申すつもりではありません。しかしながらこれだけ説明すれば、吾人の経験の取扱い方の一般は分るだろうと思います。客観主観の両態度の意味と、その態度によって、叙述の様子がだんだんに左右へ離れて行く模様が分るだろうと思います。それが普通の人の分れ具合でまた創作家の分れ具合であります。だからつまるところは創作家の態度も常人の態度も同じ事に帰着してしまいます。何だつまらない、それがどうしたんだとおっしゃる方が、あるかも知れ
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