」、「x2」はそれぞれ縦中横、すべての「2」は上付き小書き]とあればこの関係で円を叙述する事になるそうです。私の知っている数学者はこの式さえ見れば円が眼に浮ぶと云いました。恐ろしいものです。しかしこの式の意味を解しても、円が眼に浮ぶようになるのはちょっと暇がかかるだろうと思われます。それから x=A cos 2πnt は一種の振動をあらわしたり、λ=597μμ とあると光波の長さで光の色をあらわすのだそうで、まことに不可思議の至のように思われますが、いずれも長くかかって説明すべきものを、手数を省《はぶ》くために、かようにつづめたものであります。だから比較的に非常に込みいった、客観的関係が畳み込まれているには相違ありません。それがためこれらを了解する非我の世界における知識は大分広く深くなるでありましょうが、その代り我《が》自身だけに関する経験すなわち主観の部分は全くないと云っても差し支ありません。ただし x2+y2=r2[#「x2」、「y2」、「x2」はそれぞれ縦中横、すべての「2」は上付き小書き]はいかな円でも円でさえあればあらわしているのだから、取《とり》も直《なお》さず円の概念に当
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