おの》一つずつしかないと合点《がてん》しても間違ではなかろうと思います。その中間に横《よこたわ》っている多数の場合は皆この両面を兼ねているでしょう。もし兼ねているのが不都合ならば或る比例において入り交っていると云うが好いでしょう。
そうすると私は、何だかいらざる駄弁を弄《ろう》した、独《ひと》りよがりの心理学者のようになります。それでは少々心細いから、もう少しこの両方面を研究して御話ししたいと思う。すなわちこの単純な経験において両面を区別しておく方が適当であると御納得《ごなっとく》の参るように、この両面が漸々《ぜんぜん》右と左へ分れて発展する結果ついには大変違ったものになりうると云う事を説明したいと思います。
説明はなるべく単簡《たんかん》な方が宜《よ》ろしいから、ここに一つの物でも、人でもあるとする。この物か人は与えられたものとします。すると、以上の両態度でこれに対すると、これを叙述する方法が双方共にどう発展するかという問題であります。
その前にちょっと御断わりをしておきますが、ここではAならAを与えてあると見て、その与えられたAをいかに叙述して行くかと云うのですから、叙述家に
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