明したりする際には、一主義のもとに窮窟《きゅうくつ》に律し去る習慣を改めて、歴史的には矛盾するごとくに見傚されている主義でも構わないから、これを併立せしめて、いやしくもその作物のある部分を説明するに足る以上はこれを列挙して憚《はば》からんようにしなければ、やはり前段同様の不都合に陥る訳であります。しかし歴史的関係から作物はそれ自身に whole なものとして取り扱われておりますし、何主義と云う名はこの whole な作物を掩《おお》う名称として用いられておりますから、妙な現象が起って参ります。ここに甲の人があってAと云う作物を出す。するとこの作物にB主義と云う名がつく。(多くの場合においてはこう一言に纏《まと》められないにもかかわらず)次に乙なる人が出て来てA′[#「A′」は縦中横]と云う作物を公けにする。すると批評家がAとA′[#「A′」は縦中横]の類似の点を認めて、やはりB主義に入れてしまう。あるいは作家自身が自らB主義と名乗る場合もありましょう。どちらでも同じ事であります。第三に丙《へい》と云う男が出てA″[#「A″」は縦中横]を書く。A′[#「A′」は縦中横]とA″[#「A″」
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