家にも読者にも都合のいい性格を創造したものであります。しかも自然の法則に従って創造したものではなくって、小説の世界に便宜《べんぎ》を与うるために、ある程度まで自然の法則を破って、創造したものであります。普通の場合において、個人の性格中のある特性が、その個人の生涯《しょうがい》を貫ぬいている事は事実であります。がこの特性だけで人物が出来上っておらん事も事実であります。のみか、この特性に矛盾反対するような形相をたくさん備えているのが一般の事実であります。だから諺《ことわざ》にも近侍の眼から見れば英雄もまた凡人に過ぎずと申します。極めて簡単で例にならんほどの例でありますが、人事には大変冷淡な人が、健康だけには恐ろしく神経過敏に見える事があります。家族には無愛想極まっても朋友《ほうゆう》にはこの上なく叮嚀《ていねい》な男もございます。こう云う点を詳《くわ》しく調べてみたらば、あるいは矛盾のある方が自然の性格で、ない方が小説の性格とまで云われはしますまいか。
そこで小説家、戯曲家うちでもこの点に注意し出して、ついに矛盾の性行をかくようになりました。そうして読者もこれを首肯するようになりました。
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