ゥ、行《い》きさつが少し変だぜ。うん、そうか、やっぱりそうか。するてえと奴《やっこ》さん、驚ろいちまってからに……」
「誰が驚ろいたんだい」
「女がさ」
「女が文を受け取って驚ろいたんだね」
「ところが驚ろくような女なら、殊勝《しお》らしいんだが、驚ろくどころじゃねえ」
「じゃ誰が驚ろいたんだい」
「口説た方がさ」
「口説ないのじゃないか」
「ええ、じれってえ。間違ってらあ。文《ふみ》をもらってさ」
「それじゃやっぱり女だろう」
「なあに男がさ」
「男なら、その坊主だろう」
「ええ、その坊主がさ」
「坊主がどうして驚ろいたのかい」
「どうしてって、本堂で和尚《おしょう》さんと御経を上げてると、突然《いきなり》あの女が飛び込んで来て――ウフフフフ。どうしても狂印《きじるし》だね」
「どうかしたのかい」
「そんなに可愛《かわい》いなら、仏様の前で、いっしょに寝ようって、出し抜けに、泰安《たいあん》さんの頸《くび》っ玉《たま》へかじりついたんでさあ」
「へええ」
「面喰《めんくら》ったなあ、泰安さ。気狂《きちげえ》に文をつけて、飛んだ恥を掻《か》かせられて、とうとう、その晩こっそり姿を隠して
前へ
次へ
全217ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング