サれじゃ、あなたの顔をいろいろにして見せてちょうだい」
「これほど毎日いろいろになってればたくさんだ」
 女は黙って向《むこう》をむく。川縁《かわべり》はいつか、水とすれすれに低く着いて、見渡す田のもは、一面《いちめん》のげんげんで埋《うずま》っている。鮮《あざ》やかな紅《べに》の滴々《てきてき》が、いつの雨に流されてか、半分|溶《と》けた花の海は霞《かすみ》のなかに果《はて》しなく広がって、見上げる半空《はんくう》には崢※[#「山+榮」、第3水準1−47−92]《そうこう》たる一|峰《ぽう》が半腹《はんぷく》から微《ほの》かに春の雲を吐いている。
「あの山の向うを、あなたは越していらしった」と女が白い手を舷《ふなばた》から外へ出して、夢のような春の山を指《さ》す。
「天狗岩《てんぐいわ》はあの辺ですか」
「あの翠《みどり》の濃い下の、紫に見える所がありましょう」
「あの日影の所ですか」
「日影ですかしら。禿《は》げてるんでしょう」
「なあに凹《くぼ》んでるんですよ。禿げていりゃ、もっと茶に見えます」
「そうでしょうか。ともかく、あの裏あたりになるそうです」
「そうすると、七曲《ななま
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