驍ナ聞えぬ。男はやがて首を垂《た》れた。女は山の方を向く。顔は余の眼に入らぬ。
山では鶯《うぐいす》が啼《な》く。女は鶯に耳を借して、いるとも見える。しばらくすると、男は屹《きっ》と、垂れた首を挙げて、半《なか》ば踵《くびす》を回《めぐ》らしかける。尋常の様《さま》ではない。女は颯《さっ》と体を開いて、海の方へ向き直る。帯の間から頭を出しているのは懐剣《かいけん》らしい。男は昂然《こうぜん》として、行きかかる。女は二歩《ふたあし》ばかり、男の踵を縫《ぬ》うて進む。女は草履《ぞうり》ばきである。男の留《とま》ったのは、呼び留められたのか。振り向く瞬間に女の右手《めて》は帯の間へ落ちた。あぶない!
するりと抜け出たのは、九寸五分かと思いのほか、財布《さいふ》のような包み物である。差し出した白い手の下から、長い紐《ひも》がふらふらと春風《しゅんぷう》に揺れる。
片足を前に、腰から上を少しそらして、差し出した、白い手頸《てくび》に、紫の包。これだけの姿勢で充分|画《え》にはなろう。
紫でちょっと切れた図面が、二三寸の間隔をとって、振り返る男の体《たい》のこなし具合で、うまい按排《あんば
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