Aいつしか描《か》く気がなくなった。描かぬとすれば、地位は構わん、どこへでも坐《すわ》った所がわが住居《すまい》である。染《し》み込んだ春の日が、深く草の根に籠《こも》って、どっかと尻を卸《おろ》すと、眼に入らぬ陽炎《かげろう》を踏《ふ》み潰《つぶ》したような心持ちがする。
海は足の下に光る。遮ぎる雲の一片《ひとひら》さえ持たぬ春の日影は、普《あま》ねく水の上を照らして、いつの間にかほとぼりは波の底まで浸《し》み渡ったと思わるるほど暖かに見える。色は一刷毛《ひとはけ》の紺青《こんじょう》を平らに流したる所々に、しろかねの細鱗《さいりん》を畳んで濃《こま》やかに動いている。春の日は限り無き天《あめ》が下《した》を照らして、天が下は限りなき水を湛《たた》えたる間には、白き帆が小指の爪《つめ》ほどに見えるのみである。しかもその帆は全く動かない。往昔入貢《そのかみにゅうこう》の高麗船《こまぶね》が遠くから渡ってくるときには、あんなに見えたであろう。そのほかは大千《だいせん》世界を極《きわ》めて、照らす日の世、照らさるる海の世のみである。
ごろりと寝《ね》る。帽子が額《ひたい》をすべって、や
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