sいくつ》でも上げますよ、持っていらっしゃいと答えて、樹《き》の上で妙な節《ふし》の唄《うた》をうたい出した。東京では蜜柑の皮でさえ薬種屋《やくしゅや》へ買いに行かねばならぬのにと思った。夜になると、しきりに銃《つつ》の音がする。何だと聞いたら、猟師《りょうし》が鴨《かも》をとるんだと教えてくれた。その時は那美さんの、なの字も知らずに済んだ。
 あの女を役者にしたら、立派な女形《おんながた》が出来る。普通の役者は、舞台へ出ると、よそ行きの芸をする。あの女は家のなかで、常住《じょうじゅう》芝居をしている。しかも芝居をしているとは気がつかん。自然天然《しぜんてんねん》に芝居をしている。あんなのを美的生活《びてきせいかつ》とでも云うのだろう。あの女の御蔭《おかげ》で画《え》の修業がだいぶ出来た。
 あの女の所作《しょさ》を芝居と見なければ、薄気味がわるくて一日もいたたまれん。義理とか人情とか云う、尋常の道具立《どうぐだて》を背景にして、普通の小説家のような観察点からあの女を研究したら、刺激が強過ぎて、すぐいやになる。現実世界に在《あ》って、余とあの女の間に纏綿《てんめん》した一種の関係が成り
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