宸フ勘定をされちゃ、なり切れませんよ」
「ハハハハ。それ御覧。あの、あなたの泊《とま》っている、志保田の御那美さんも、嫁に入《い》って帰ってきてから、どうもいろいろな事が気になってならん、ならんと云うてしまいにとうとう、わしの所へ法《ほう》を問いに来たじゃて。ところが近頃はだいぶ出来てきて、そら、御覧。あのような訳《わけ》のわかった女になったじゃて」
「へええ、どうもただの女じゃないと思いました」
「いやなかなか機鋒《きほう》の鋭《する》どい女で――わしの所へ修業に来ていた泰安《たいあん》と云う若僧《にゃくそう》も、あの女のために、ふとした事から大事《だいじ》を窮明《きゅうめい》せんならん因縁《いんねん》に逢着《ほうちゃく》して――今によい智識《ちしき》になるようじゃ」
 静かな庭に、松の影が落ちる、遠くの海は、空の光りに応《こた》うるがごとく、応えざるがごとく、有耶無耶《うやむや》のうちに微《かす》かなる、耀《かがや》きを放つ。漁火《いさりび》は明滅す。
「あの松の影を御覧」
「奇麗《きれい》ですな」
「ただ奇麗かな」
「ええ」
「奇麗な上に、風が吹いても苦にしない」
 茶碗に余った
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