「です、東京ですか」
「いやここで、東京へは、も二十年も出ん。近頃は電車とか云うものが出来たそうじゃが、ちょっと乗って見たいような気がする」
「つまらんものですよ。やかましくって」
「そうかな。蜀犬《しょっけん》日に吠《ほ》え、呉牛《ごぎゅう》月に喘《あえ》ぐと云うから、わしのような田舎者《いなかもの》は、かえって困るかも知れんてのう」
「困りゃしませんがね。つまらんですよ」
「そうかな」
 鉄瓶《てつびん》の口から煙が盛《さかん》に出る。和尚《おしょう》は茶箪笥《ちゃだんす》から茶器を取り出して、茶を注《つ》いでくれる。
「番茶を一つ御上《おあが》り。志保田の隠居さんのような甘《うま》い茶じゃない」
「いえ結構です」
「あなたは、そうやって、方々あるくように見受けるがやはり画《え》をかくためかの」
「ええ。道具だけは持ってあるきますが、画はかかないでも構わないんです」
「はあ、それじゃ遊び半分かの」
「そうですね。そう云っても善《い》いでしょう。屁《へ》の勘定《かんじょう》をされるのが、いやですからね」
 さすがの禅僧も、この語だけは解《げ》しかねたと見える。
「屁の勘定た何かな」

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