Aところどころに岩が自然のまま水際《みずぎわ》に横《よこた》わっている。縁の高さも、池の形の名状しがたいように、波を打って、色々な起伏を不規則に連《つら》ねている。
池をめぐりては雑木《ぞうき》が多い。何百本あるか勘定《かんじょう》がし切れぬ。中には、まだ春の芽を吹いておらんのがある。割合に枝の繁《こ》まない所は、依然として、うららかな春の日を受けて、萌《も》え出でた下草《したぐさ》さえある。壺菫《つぼすみれ》の淡き影が、ちらりちらりとその間に見える。
日本の菫は眠っている感じである。「天来《てんらい》の奇想のように」、と形容した西人《せいじん》の句はとうていあてはまるまい。こう思う途端《とたん》に余の足はとまった。足がとまれば、厭《いや》になるまでそこにいる。いられるのは、幸福な人である。東京でそんな事をすれば、すぐ電車に引き殺される。電車が殺さなければ巡査が追い立てる。都会は太平の民《たみ》を乞食《こじき》と間違えて、掏摸《すり》の親分たる探偵《たんてい》に高い月俸を払う所である。
余は草を茵《しとね》に太平の尻をそろりと卸《おろ》した。ここならば、五六日こうしたなり動かない
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