ワだ買うたなりじゃ」
「そうじゃろ。こないなのは支那《しな》でも珍らしかろうな、隠居さん」
「左様《さよう》」
「わしも一つ欲しいものじゃ。何なら久一さんに頼もうか。どうかな、買うて来ておくれかな」
「へへへへ。硯《すずり》を見つけないうちに、死んでしまいそうです」
「本当に硯どころではないな。時にいつ御立ちか」
「二三日《にさんち》うちに立ちます」
「隠居さん。吉田まで送って御やり」
「普段なら、年は取っとるし、まあ見合《みあわ》すところじゃが、ことによると、もう逢《あ》えんかも、知れんから、送ってやろうと思うております」
「御伯父《おじ》さんは送ってくれんでもいいです」
若い男はこの老人の甥《おい》と見える。なるほどどこか似ている。
「なあに、送って貰うがいい。川船《かわふね》で行けば訳はない。なあ隠居さん」
「はい、山越《やまごし》では難義だが、廻り路でも船なら……」
若い男は今度は別に辞退もしない。ただ黙っている。
「支那の方へおいでですか」と余はちょっと聞いて見た。
「ええ」
ええの二字では少し物足らなかったが、その上掘って聞く必要もないから控《ひか》えた。障子《しょう
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