い二階の上から降るでもなく晴れるでもなく、ただ夢のように煙るKの町を眼の下に見た。三人が車を並べて停車場《ステーション》に着いた時、プラットフォームの上には雨合羽《あまがっぱ》を着た五六の西洋人と日本人が七時二十分の上り列車を待つべく無言のまま徘徊《はいかい》していた。
 御大葬と乃木大将の記事で、都下で発行するあらゆる新聞の紙面が埋《うず》まったのは、それから一日おいて次の朝の出来事である。


底本:「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1988(昭和63)年7月26日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月にかけて刊行
入力:柴田卓治
校正:大野晋
1999年5月12日公開
1999年8月30日修正
青空文庫作成ファイル:
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