子規の画
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)子規《しき》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)東菊|活《い》けて

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 余は子規《しき》の描いた画《え》をたった一枚持っている。亡友の記念《かたみ》だと思って長い間それを袋の中に入れてしまっておいた。年数《ねんすう》の経《た》つに伴《つ》れて、ある時はまるで袋の所在を忘れて打ち過ぎる事も多かった。近頃ふと思い出して、ああしておいては転宅の際などにどこへ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へやって懸物《かけもの》にでも仕立てさせようと云う気が起った。渋紙の袋を引き出して塵《ちり》を払《はた》いて中を検《しら》べると、画は元のまま湿《しめ》っぽく四折《よつおり》に畳んであった。画のほかに、無いと思った子規の手紙も幾通か出て来た。余はその中《うち》から子規が余に宛《あ》てて寄こした最後のものと、それから年月の分らない短いものとを選び出して、その中間に例の画を挟《はさ》んで、三つを一纏《ひとまと》めに表装させた。
 画は一輪花瓶《いちりんざし》に挿《さ》した東菊《あずま
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