スらしてきた。
「蜜柑をむいてあげましょうか」
 女は青い葉の間から、果物《くだもの》を取り出した。渇《かわ》いた人は、香《か》にほとばしる甘い露を、したたかに飲んだ。
「おいしいでしょう。美禰子さんのお見舞《みやげ》よ」
「もうたくさん」
 女は袂《たもと》から白いハンケチを出して手をふいた。
「野々宮さん、あなたの御縁談はどうなりました」
「あれぎりです」
「美禰子さんにも縁談の口があるそうじゃありませんか」
「ええ、もうまとまりました」
「だれですか、さきは」
「私をもらうと言ったかたなの。ほほほおかしいでしょう。美禰子さんのお兄《あに》いさんのお友だちよ。私近いうちにまた兄といっしょに家を持ちますの。美禰子さんが行ってしまうと、もうご厄介《やっかい》になってるわけにゆかないから」
「あなたはお嫁には行かないんですか」
「行きたい所がありさえすれば行きますわ」
 女はこう言い捨てて心持ちよく笑った。まだ行きたい所がないにきまっている。
 三四郎はその日から四日《よっか》ほど床を離れなかった。五日目《いつかめ》にこわごわながら湯にはいって、鏡を見た。亡者《もうじゃ》の相がある。思い
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